画像提供:ポニーキャニオン
ポニーキャニオンに入社後、大阪での営業、マーケティング部を経て、人事総務1部で採用担当として働く髙橋夏穂さん。結婚、出産、育児、その先の介護、ライフステージが変化していったとしても好きな仕事を諦めなくていい。自らの経験を活かし、髙橋さんは新しい時代の働き方と生き方を提示する。
髙橋夏穂(たかはし・なつほ)
2012年に新卒でポニーキャニオンに入社。
大阪と東京でCDなどのフィジカル商品の営業業務や、映像映画作品やアニメ作品、声優アーティストの販売促進業務を担当したのち、2017年に産休育休を取得。2019年に復職し、現在は人事総務本部で採用業務と子育て両立支援等のダイバーシティ&インクルージョンに関する業務を担当。同時にSDGsや会社のブランディングに関わる社内横断プロジェクトにも参加。
憧れのエンタメ業界へ。作品を手に取ってもらうことの醍醐味
幼いころからエンタメが好きで、キラキラした世界に憧れを抱いていたという髙橋さん。中学時代には地元・仙台からの上京を決意し、地元の国公立に進学してほしい、と願う親をどうにか説得して、東京の大学へと進学した。
「就職活動をするにあたっては、人の心を動かすような仕事に就きたい、と決めていたこともあって、音楽だけでなく映像や映画など幅広いコンテンツを扱う総合エンターテイメント企業であるポニーキャニオンを志望しました。就活の面接ってどうしても背伸びしてしまいがちですけど、ポニーキャニオンの面接は等身大の自分で受けることができたように思います」
無事にポニーキャニオンへ就職し、最初に配属されたのは西日本営業所だった。
「私が担当していた地域は、京都、奈良、滋賀、岐阜、名古屋。CDショップをまわって、所属アーティストのCDや幅広いジャンルの映像作品を置いてもらえるように交渉するのが、営業の仕事です。京都や奈良は日帰りで、滋賀、岐阜、名古屋は泊まりがけの出張。レンタカーでまわっていました。
大阪時代は土日に所属アーティストのライブやイベントが毎週のようにあって。厳密にいうと自分の担当ではなかったのですが、毎週末なにかしらの現場に行っていました。休みがなかったのは辛かったですが、営業以外の経験もたくさん積めたのが本当に良かったし、何より楽しかったです」
そんな大阪での仕事にも慣れてきた髙橋さんだが、東京の営業部へ異動となった。そこで担当となったのは、渋谷、新宿、池袋、秋葉原、横浜などの大型CDショップ。「東京での営業時代が体力的に一番大変でした(笑)」と振り返る。
「都内一等地にある大型CDショップは、各アーティストの所属事務所の方や、アーティスト本人も足を運ぶような場所で、一番の激戦区。新人アーティストを含め、どのくらいの規模でどんな店頭プロモーション展開をするか、会社とショップとの間に立って調整することの難しさを痛感しました」
その後、映像マーケティング部へ。作品全体の販売促進担当として、制作チームと営業チームの橋渡し役を任されることになった。
「当時は、ちょうど音楽や映像の配信が拡大する過渡期。配信へ移行するユーザーが増えていく中で、CDやBlu-ray・DVDといったパッケージ商品をどうやって手に取ってもらうかを考えるのは正直難しく、辛いと感じることもありましたが、自分の発想次第でアーティストや作品の魅力を直接ファンの方々に届けられるという醍醐味もありました」
人生の転機。復職後は人事総務本部へ異動し、仕事と子育ての両立を模索
ポニーキャニオン本社4FのLOUNGEで。夏の緑がまぶしいカウンター席、解放感のある大きな窓が社員の癒しの空間でもある。
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結婚・妊娠を経て、2017年12月から約1年半、産休・育休を取得。愛する我が子に全力で向き合う幸せな日々を送るいっぽう、職場復帰に関しては迷いもあったという。
「育休延長申請と復職時以外、育休中に会社と連絡を取るタイミングがなかったこともあり、1年半以上もあったブランクを埋められるかな、ちゃんと仕事に戻ることができるのかな、という不安があって。家庭や子どもとの時間を優先したい、という気持ちから離職を考えたこともあります。でも、子どもが育っていく将来、経済面で不安がないようにしたいし、働くならやっぱり好きなエンタメの仕事がしたいなと思い、復職を決めました」
2019年5月に復職した髙橋さんだが、元の所属の映像マーケティング部ではなく人事総務部に復職したのには理由がある。
「通勤距離が長いことや慣れない育児をしながらの職場復帰には不安もあったので、安定して時短勤務ができる部署を希望して、人事総務部で採用担当として働くことになったんです。
それまで経験してきた営業や販売促進とは業務内容がガラッと異なるので、最初は戸惑いもありました。コロナ禍を契機に会社自体がテレワークメインに切り替わりましたが、それ以前は、朝9時半に出社して、16時には会社を出て、保育園に子どもを迎えに行き、帰宅後はなんとか家事をこなして、子どもを寝かしつけ、翌日の用意をする。子どもが保育園で熱を出せば、早退して迎えに行かなくてはいけない。時短勤務ができている中でも、『仕事と子育ての両立ってこんなに大変なのか!』と痛感しました」
子育てをしながら、自分の望むキャリアを実現できるのだろうか。そんな不安を感じていた髙橋さんは、同時期に産休・育休を経てアニメクリエイティブ本部に復職した制作プロデューサーであり、ひとつ年上の先輩である宮井梨江さんと、仕事と子育ての両立や働き方、生き方について意見を交わすようになる。
「仕事と子育ての両立、しかもそれがエンタメ業界で、となるとなかなか難しくて。女性の場合は子どもができれば仕事内容を変えざるを得なかったり、時間的に融通の利く仕事に転職せざるを得なかったりもします。
でも、宮井さんも私も、子育てしながらでもやっぱりエンタメ業界で働き続けていきたい、という気持ちは揺るがなかったんですよね。だったら、自分たちが先頭に立ってママでも働きやすい会社に変えていこう、子育てしながらでも働きやすいサポート体制を作ろう、と決意したんです」
自らの経験を活かして立ち上げた「パパママ社員サポート」
「パパママ社員サポート」で配布する「パパママ手帳」。イラスト入りの優しい色使いで、「産休に入る前にやっておくこと」や「出産にかかわる手続き」などのチェック欄もあってわかりやすい。
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そして、2021年。ついに、髙橋さんと宮井さんが中心となり、妊娠中・子育て中の社員がより良い環境で業務に取り組めるようサポートしていく制度「パパママ社員サポート」を立ち上げた。
「まず、子育てしながら働く中で困っていること、こうだったらいいのにという希望を社内のママ社員から細かく聞き取りをしました。その意見を聞く中でも、自分たち自身の経験をもとにしても、何かあったときに誰でもいつでも気軽に相談できる窓口が必要、ということになりました。私と宮井さんで人事総務本部とHR戦略室に提案したところ、会社の目指す方向とも合致していたんです。『パパママ社員サポート』を立ち上げることができたのは、社会全体が働き方改革を推進し始め、ポニーキャニオンとしても子育て中の社員サポートに力を入れようという流れができ始めたタイミングだったからこそでもあります」
妊娠・子育てに関わる全般について、本人または配偶者の不安を少しでも取り除くべく、制度面だけではなくメンタル面でのサポートもしていこうというのが「パパママ社員サポート」。産休前と復職前、2回の面談を実施し、産休前の面談では、先輩パパママ社員の目線でまとめた独自の「パパママ手帳」を配布することにした。
「以前は、妊娠を会社に報告すると給付金関連書類を渡されるだけだったんですね。でも、妊娠や出産、産休・育休は、それが初めての経験ならわからないことだらけ。産休に入る前には何をしておけばいいのか、復職しようと思っても、もし子どもが保育園に入れなかったらどうすればいいのか、育休中はどうしても孤立感を覚えてしまう……。
そういった疑問や不安を解決する情報や先輩パパママ社員のリアルな体験談が、『パパママ手帳』に盛り込まれています。デザインにもこだわっていて、文字だけの素っ気ないものではなく、イラスト入りで優しい色づかいにしました。新米パパママに寄り添うものになれていたら嬉しいです」
また、「パパママ社員サポート」は子どものいる社員だけでなく、マネージメントする上長にも目を向けている。2022年8月には、子育て中の社員と上司が約60名参加した「子育て中の社員×上司フォーラム」を実施。上司と部下という立場を取り払い、いちパパ・ママとして、経験則や悩みなどを語り合うことで、相互理解を深めることが出来た貴重な場となったという。より良い働き方ができる環境を目指し、自らの経験を活かした数々の取り組みは、ママはもちろん、パパにとっても心強いものだ。
「最初は働くママだけを対象にしていろいろ考えていたのですが、社内のパパにもヒアリングをしていく中で、ママだけではなくパパも仕事と子育ての両立に奮闘して苦戦しているんだ、ということに改めて気づいたんです。
ママの場合は子どもがいるということが周知されていても、パパの場合は意外と周知されていなくて。たとえばお子さんが熱を出してパパが迎えに行かないといけない場面でも、仕事を抜けづらかったりもする。でも、今の時代、共働きはもちろん、男性の育児参加も当たり前になりつつある中で、パパのこともママのこともケアしてサポートするべきなんですよね。これからは、パパの育児休暇もどんどん増えていくだろうし、そうなるべきだと思います。
パパだって、ママだって。所属部署の仲間に不安なく仕事を引き継いで安心して産休や育休を取得できるだけでなく、子育てしながらでも好きな部署、業務内容を選べるような会社に。それが、私の願いです」
ライフステージに応じたキャリア形成を目指して
人事総務の採用担当、「SDGsプロジェクト」「ブランド創造プロジェクト」の一員、そして家に帰ればとりもなおさず“ママ”である髙橋さん。
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「今、すごく仕事が楽しい」と笑顔を見せる髙橋さんは、「SDGs戦略プロジェクト」や「ブランド創造プロジェクト」のメンバーとしても、その手腕を発揮。憧れていた映像や音楽の制作と形は違えど、何もないところからプロジェクトを動かしていく、という夢を叶えている。
「以前は産休・育休を取得することがキャリアにとってはマイナスに働くんだろうな、と勝手に想像していたし、ずっと一から作品を生み出す制作の仕事を諦めきれない気持ちもありました。でも今、クリエイティブな部署ではなくても、『パパママ社員サポート』や社内横断プロジェクトにおいて前例のない挑戦をすることができていて、自分の経験を明確に仕事に活かせていることにやりがいを感じています。
特に『SDGs戦略プロジェクト』では、主業務にも直結する内容であるダイバーシティ&インクルージョンのテーマを担当しているのですが、多様な背景を持つ社員を尊重し認め合い、それだけでなく活かして新たな価値創造につなげるためにどうしていけばよいのか、ということを日々考えています。会社の成長や事業発展だけでなく、エンタメ企業として社会に貢献していくことに、大きなやりがいを感じています。
『パパママ社員サポート』の立ち上げや『SDGs戦略プロジェクト』の取り組みを通じ、組織や働き方についてよりいっそう考えるようになりました。人事総務部の採用担当としては、就活生からの『残業はありますか?』『土日は忙しいんですか?』という質問に対しては悩ましさもあります。エンターテイメント企業の場合、部署や時期によっては多くの人が余暇を楽しむための業務後や休日こそ忙しくなりますから。
“好き”の気持ちはやっぱり大事だけど、無理をすると長くは続けられない。総労働時間の枠組みの中で働く時間を自由に決められるフルフレックス制、コロナ禍を契機に進んだテレワークも活用しながら、社員それぞれがライフステージの変化に合わせながらキャリアを重ねていけるような取り組みをする必要があります。子育てだけでなく、親の介護をしながらでも、障がいがあってもエンタメの仕事ができる。ポニーキャニオンはそういう多様な働き方ができる会社になっていけると思うし、私もそのためのさまざまな提案をしていきたいです」
「仕事と子育てを通じてさまざまな経験を重ねたことで、人としても成長できているな、ということを感じています」と語る髙橋さんは、2022年4月からグロービス経営大学院に単科生として入学。「人事総務での業務やプロジェクトを通して、会社の制度に関わることや経営戦略にも興味を持つようになったんです。子育てしながら時間や働き方の制限がある中で、現場での経験を積むことがなかなか難しいからこそ、もっともっと知識を得たいと思っています」と学びへの意欲も見せる。
会社のために、そこで働くすべての人たちのために、自分の子どもたち世代が生きていく未来のために。視野を広げた髙橋さんは、どんな道でも新しい扉を開き、社会を変えていくことができる、という希望をこれからも体現していく。
画像提供/ポニーキャニオン
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