画像/MASHING UP
ウェルビーイングとは、よりよく生きる、幸せに生きるということ。その中には「より幸せに働く」ということも包含されている。ビジネスシーンにおけるウェルビーイングは、個人の幸福感が高まることでパフォーマンスも最大化させることができるという考え方だ。推進を試みる企業も増えているが、社員の理解促進やカルチャーの浸透には多くの企業が試行錯誤しているのが現状だろう。
2022年11月11日に行われたMASHING UP CONFERENCE vol.6では、アクセンチュア マネジング・ディレクター ビジネス コンサルティング本部 兼 インクルージョン&ダイバーシティ ウェルビーイング日本統括 海津恵さんと、Great Place to Work® Institute Japan(以下、「GPTWジャパン」)代表の荒川陽子さんが登壇。「個からチームへ。ウェルビーイングのスタート地点はどこにある?」と題したトークセッションで、企業におけるウェルビーイング推進のヒントが示された。
「リチャージ力の獲得」をコンセプトに
参加者からは「働き方改革とウェルビーイング推進をいかに差別化すればよいか」など、現場担当者が直面する課題などが共有された。
撮影者/TAWARA(magNese)
2021年にGPTWが世界37か国を対象に、高いレベルのウェルビーイングを実現している従業員の割合についての調査を実施したところ、日本は37か国中36位という結果に。いかに多くの組織が課題を抱えているのかが窺い知れるデータだ。
グローバル企業であるコンサルティングファーム アクセンチュアは、働くうえでのウェルビーイングの重要性を、どのように捉えているのだろう。
「私たちは『個のウェルビーイングを高めることで、アクセンチュアのI&D(インクルージョン&ダイバーシティ)が目指す“真のイクオリティ(平等)”を実現するというもの。誰もが自分らしく最大限の力を発揮できる職場環境を作っていく』という考え方で、ウェルビーイング推進を、弊社のI&D活動の一つとしても取り組んでいます。また、あくまでも『プライベートの自分にとってのウェルビーイング』ではなく、『企業の中にいる社員としてのウェルビーイング』であることを意識して行っています」(海津さん)
ウェルビーイング推進活動の立ち上げ時に直面した課題について、海津さんはこう振り返る。
「対象となる、約1万9千人の全従業員が持つ多様性を貫くメッセージが必要でした。様々な雇用属性、価値観の人がいる中で、どうアプローチするか。そして社員のパフォーマンスの維持・向上を大前提とした時に、どのようなメッセージが響くのかについては頭を悩ませました」(海津さん)
活動の立ち上げ時に、全組織の代表社員にヒアリングを行う中で、様々な課題が見えてきたという。それらを解決するために、「セルフウェルビーイングとしての”リチャージ力“の獲得」「プロとしてのテクニックを身につける」「何を語るか+誰が語るか」という3つの活動立ち上げのコンセプトを見出された。「リチャージ力」というコンセプトは、ヒアリングを通じて、目指すゴールや皆がどんな時に喜びを感じるのかをリサーチしたうえで定めた。
「何のためにするのか、何を目指すのか。その意味を自社の中で落とし込んでいくときに、コンセプトは非常に重要。ビジネスを推進していく中でのウェルビーイングを考えた際に、アクセンチュアでは“リチャージ力”だったわけですね」と、荒川さん。
「働き方に求めるものは個々に異なりますが、リサーチを通して『自分が元気であること。つまり、自分にとってベストな状態であることで、より良く自分の能力を発揮していきたい、誠を尽くしていきたい』という思いは、皆の共通の願いであるということがわかりました。そこで、自分自身をリチャージしながら元気な状態を維持することを、共通コンセプトとしました」(海津さん)
活動を通して気づいた、自身の中のアンコンシャスバイアス
アクセンチュア マネジング・ディレクター ビジネス コンサルティング本部ストラテジーグループ 人材・組織 プラクティス 兼 インクルージョン&ダイバーシティ ウェルビーイング日本統括 海津恵さん。
撮影者/TAWARA(magNese)
コンセプトの3つ目、「何を語るか+誰が語るか」を定めた際のエピソードとして海津さんは、「プロジェクトを進めるにあたり社員自身がウェルビーイングを語ることが、果たして効果的なのか悩んだ」と語った。
「そこで、社外からスピーカーを招いていくつかイベントを開催しました。たとえばメンタルトレーナーによる、メンタルヘルスをテクニックとして自分ごと化しているプロのアスリートの話は、体育会系社員に響いたようです。あるいはモデルの方には『心のレジリエンス』を、大学教授にはデジタル技術とウェルビーイングの向上について語っていただくなど、様々な切り口でイベントを実施しました」(海津さん)
また、ユニークなのは世界メンタルヘルスデーのある10月に合わせて実施した「日めくりコンテンツ」だ。内容は、社員から「自分にとってのウェルビーイング、リチャージ」になるような一言と写真を募集し、集まったものを選抜して約1か月に渡り毎日、Teamsやチャットボットで配信していくというもの。「リチャージ」というコンセプトが明快ゆえに、多くのヒントが集まっている。配信期間中のTeamsグループのアクティブユーザーは2,600名以上と、全体の10%を超える。
「アンケートを取ったところ、所属や年齢に偏りがなく、色々な属性が参加していることがわかりました。幅広い層に向けた取り組みとして成立している点は、個人的に一番うれしい手ごたえです」(海津さん)
また、海津さんはこの取り組みを通して「自分の中にあるアンコンシャスバイアスに気づいた」と語る。
「ウェルビーイングというと、ヨガや瞑想などを連想する人が多いのかなと想像していました。しかし、活動に参加している男性社員から『子どものころから“自分の幸せ”について興味があった。この活動を通して、社員の幸せも考えていきたい』と、活動への参加理由を聞く機会がありました。その時、『ウェルビーイング=女性向けのもの』というアンコンシャスバイアスが自分の中にあったと気づいたのです。
また、プロジェクトを始めて「ウェルビーイングについて考えるプロセス自体が、実はウェルビーイングだった」ということも実感しました」(海津さん)
個からチームへ。活動をサステナブルに続けていくために
Great Place to Work® Institute Japan代表の荒川陽子さん。「自分らしくいながら、最大限の能力を発揮することが働きがいだ」と言及。
撮影者/TAWARA(magNese)
参加者の輪は着実に広がりを見せている。「今後は、これまでのアプローチでは取り込めないであろう“第2層”に向けたアプローチが課題」と、海津さん。荒川さんは、今回のセッションテーマでもある「個からチームへ」というキーワードに触れつつ、「チームにウェルビーイングのムーブメントを広げていくというのは、また一つハードルがある」と語る。
「個にとってのみのウェルビーイングを考えたとき、自分自身が頑張れば、幸せや働きがいは手に入るかもしれない。しかし、周囲にも波及させてチーム全体のウェルビーイングを実現しようとすると、次なる工夫が必要ですよね」(荒川さん)
プロジェクトはウェルビーイングの領域に課題や関心を持っている社員が、組織を横断して組成されたコミッティで運営されている。専任の担当者はおらず、コミッティメンバー全員が本業のかたわら自主的に取り組みに参加しているという、アクセンチュアのウェルビーイング推進。活動をサステナブルに継続するために必要な視点について、海津さんは「2%の変化」という言葉でその答えを示した。
「組織の中にウェルビーイングの考え方を根付かせるには、時間がかかります。じわじわと変化していくのを待つしかありません。効果が見えづらくもあり、プロジェクトを進める側は途中でつらくなる部分もあるでしょう。
しかし、効果がないように見えても2%の変化は起きています。この変化が生まれると、その2%が後々の大きい変化につながります。何かを変えるには『すごいことをしなければ』と思うかもしれませんが、2%を積み上げていくという構えで取り組めば、サステナブルな活動になるのではないでしょうか」(海津さん)
個人、ひいては組織のウェルビーイングを実現するには、長い時間をかけ、多くのハードルをも超えていかなければならない。しかし、一人ひとりがまずウェルビーイングについて考えること、そして行動することから現状は変わっていくはず。そんなヒントを得るセッションとなった。
撮影/TAWARA(magNese)
MASHING UP CONFERENCE vol.6
個からチームへ。ウェルビーイングのスタート地点はどこにある?
海津 恵(アクセンチュア マネジング・ディレクター ビジネス コンサルティング本部ストラテジーグループ 人材・組織 プラクティス 兼 インクルージョン&ダイバーシティ ウェルビーイング日本統括 ) 、荒川 陽子(Great Place to Work® Institute Japan代表)
[アクセンチュア]
執筆/島田ゆかり
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