画像提供/パナソニックコネクト
DEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン。DE&Iとも)推進の取り組みを長く行ってきても、「どうしても変わることのできない層がある」というのは、多くの企業によくある悩みだろう。
それは、社長兼CEOの樋口泰行さんが高いコミットメントでDEI推進を続けてきたパナソニック コネクトにおいても同様だ。この課題を検証するため、同社では3回目となる「パナソニック コネクトDEIフォーラム」を全社員対象に開催。(※樋口さんの樋はしんにょうの点が一つ)
数々の企業でDEI推進をサポートしてきたプロノバ代表取締役社長の岡島悦子さんをゲストに招き、樋口さんとともに、DEIの本質を実現するための根本的な解決策とは何かを語り合った。
変われない層を変えていくために、企業ができることは何か
パナソニック コネクト 代表取締役 執行役員 社長の樋口 泰行さん。
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DEIはなぜ、“どうしても推進しなくてはならない”のか。まず、樋口さんから共通認識が語られた。
「1つ目は、人権の尊重としてのDEI。マイノリティをリスペクトし、差別のない環境を生むためです。2つ目は、DEIによって意思決定の質を上げ、イノベーションを創出し、企業の競争力を上げていくためです」(樋口さん)
2点とも、これから企業が生き残るために必要なDEIの本質であることは言うまでもないが、昨今ではパワハラ・セクハラの発生など人権の尊重としての意識が欠けていると指摘。この解決には、「変われない層を変えていく」、なかでもマジョリティを占める40代以上男性、管理職層の意識と行動変革が特に重要とし、社をあげて働きかけていると樋口さんは話した。
意思決定に多様な視点を入れていく
岡島さんは、「なぜ(企業は)ダイバーシティ推進をしたいのか」については、まさに「個人の人権の尊重」、「企業価値の向上」の2点であると示した上で、「どうやってダイバーシティ推進をしていくか」に着目する。多くの企業は、年齢や国籍など“属性のダイバーシティ”に注目しているが、企業価値の向上を考える上では、多様な視点・経験を意思決定の中に入れていくことが必要であると示唆。「経営に多様な視点が入ることでイノベーションが起き、企業価値が向上していく」
さらにダイバーシティの先進企業においては、属性や視点・経験の多様化については既に決着がつき、ダイバーシティ推進の対象領域を、個々人の中の経験の多様性、すなわちイントラパーソナルダイバーシティにも広げはじめているという。
また、多様性推進の中でも、特に女性の活躍推進に関しては、「ダイバーシティ推進活動の一つ目の矢として考えるべき」としたうえで、2つの観点からの議論があると岡島さん。一つ目の観点は、 女性従業員比率の向上(横の議論)。もう一つは、意思決定層の中にどれぐらい多様な視点が入っているのか(縦の議論)という点だ。
「縦の議論と言っている意思決定層の中に、女性をはじめとする多様な視点が入ることによって、今までの当たり前を覆すような意見が経営に取り込まれていくかどうか。多様性推進の成否は、ここの勝負ではないかなと思います」(岡島さん)
「自分のキャリアを自分で決められる」状況を確保する
プロノバ代表取締役社長の岡島悦子さん。
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心理的安全性が担保されているからこそ、全ての人が挑戦できる。これにはハラスメントの除去も関係してくると岡島さんは話す。
トップがリーダーシップを発揮して女性管理職を増やしても、DEIの社内研修を行っても、企業の中で「変わることのできない人たち」は、上からも下からも水の通らない、いわゆる「粘土層」と呼ばれている。主に40代以上の管理職に就く男性で、「自分自身がマイノリティになったことがないために、マイノリティ側の気持ちがわからない」層に多いようだ。
この粘土層と呼ばれる層が及ぼす影響をどのように変えていけばよいのだろうか。DEIの最初の一歩として、女性管理職の割合を増やすとともに、こうした層の人たちが持っているアンコンシャス・バイアスに対する自身の理解を深めることが必要だという。
「各社さんの事案を拝見していると、発信者に悪意はなく、『私はリベラルだ、相手のことを思って言った』という内容が受け手にとっては不快で、ハラスメントになっている、という潜在的なハラスメントが起きている企業さんが多いのです」と岡島さん。
例えば、上司が配慮して、「育児中の女性にはハードな仕事を渡さないほうがいい」と思って仕事を取り上げてしまうケースがあるが、それは上司側のアンコンシャス・バイアスであり、意欲のある女性にとってはむしろ機会損失になりかねない。他にも、育児の状況は各家庭でそれぞれ異なるにもかかわらず、「子供が病気になった時は、母親が休んだ方が良いと思う」というアンコンシャス・バイアスも、「男性は仕事、女性は家事育児」という性別役割分担意識が色濃く残っている結果ではないだろうか。
そうしたアンコンシャス・バイアスを一切なくすことは難しいが、「自分の思考に気づいて行動を変えることは可能」。そして、アンコンシャス・バイアスの影響を避けるためには、「相手に選択肢を与えて選ばせる」マネジメントが必要だと岡島さんは提示する。
「マミートラック(※)のような機会損失を避けるために、迷ったら相手に選択肢を与え、選んでもらうことが重要です。また、自分のキャリアを自分で決められる状態であることは、高いエンゲージメントにもつながります」(岡島さん)
「良かれと思って」と善意でしたことが、相手にとってはハラスメントになってしまうことも多い。「自分がどう思うかではなく、コミュニケーションは受け手が決める、という前提を徹底して認識する必要があります」と指摘する。
※出産を終えて職場復帰した社員が出世コースとは外れた働き方を強いられたり、キャリアアップが難しくなることを示す。
意識を変えるために処罰や強制もうまく取り入れる
いわゆる粘土層の社員には、DEIについて腹落ちし、自ら変わってもらうことがベストだが、「それに加えて、マインドよりも行動を強制的に変えてもらい、処罰も厳格化することも必要だと思う」と話す樋口さんに対して、強制的に経験させることも、意識を変えるきっかけになると、岡島さん。「例えば、女性だけの会議に男性1人で参加してもらうなど、実体験としてマイノリティになる機会を与えている企業もあります」と例をあげた。
「多様性推進のための仕組みを作っても結局は誰も変わっていない、という定型的な『DEIウォッシュ』といわれる状況に陥る企業さんも多い中、やはり根っこのところで、何のためにDEIを行うのか、という意識改革を根気強く続けていく必要もあります。(岡島さんが社外取締役を務める)丸井グループでは、DEIを進めていく中で、青井社長が男性ばかりの会議だと参加せずに帰ってしまうということを1年くらい続けたことで、社員の皆さんに明示的に『今のままではまずいな、経営陣は本気なんだな』と認識してもらうことができたようです。それから10年をかけて、社内から多様なアイデアが出る組織に変わってきています」(岡島さん)
女性の自己効力感を高める
写真右から樋口泰行さん、岡島悦子さん、当日司会を務めたDEI担当常務 西川岳志さん。
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ハラスメントを受ける側の女性が変わることを促す必要もある。
「多くの企業で多様性推進のためのワークショップを行ってきましたが、お話をしてみると、自分に自信がない、という女性が多いのです。せっかく多様性推進が進み、女性たちに機会が提供されても、自信のなさから「私なんてまだまだ」と尻込みしてしまうと女性の登用も進んでいきません。彼女たちの自己効力感(=未来の自分への自信)を高めるためには、上司が期待を示して、キャリアの早い段階でチャンスを提供し、小さな成功体験を積み上げて勝ち癖をつけていくと、一歩前に出やすくなります」(岡島さん)
女性は「この先、育児と両立していけるだろうか」、「このメンバーとずっと働いていけるだろうか」という漠然とした不安にとらわれていることも多い。まずは自分が不安に思っている原因を明確にし、早めに自分ならではの強みを見つけることも効果的だという。
「“英語ができる”、“データ分析が得意”など、小さな強みを掛け算にしていくと、自分にしかできないことが明らかになっていきます。社内で強みを認められてレアキャラになり、機会が提供されるようになることが、自己効力感につながります」と岡島さん。
締めくくりとして、樋口さんは「戦略を進めるとなると、ベースにダイナミックで柔らかいカルチャー、マインドが必要だと思っています。この5年の間でかなり変わってきましたが、まだまだ課題は多いと感じています。社員全員で強力にDEIを推進し、皆でいい会社にしていきましょう」とメッセージを伝えて、フォーラムは閉幕した。
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