画像提供:アップルジャパン
2022年3月8日の国際女性デーに、トークセッション「Today at Apple 高尾美穂医師に学ぶ 女性の健康とApple Watch」がApple丸の内で開催された。
ゲストは産婦人科医・スポーツドクターの高尾美穂さん。女性のライフステージごとの体の変化のしくみなどをレクチャーし、それぞれの時期に起こりやすい不調や対処法、健康管理のためのApple Watch活用法について語った。
高尾美穂(たかお・みほ)
産婦人科医 / 医学博士 / スポーツドクター。統合ヘルスクリニック「イーク表参道」副院長。文部科学省・国立スポーツ科学センター女性アスリート育成・支援プロジェクトメンバー。ヨガ愛好家として多くのインストラクターを指導。動画共有サイトでは女性の悩みに答え、楽に生きられる考え方を毎日配信している。
女性は「頑張る」ことが上手
女性が活躍していくために大事なこととして、高尾さんは「頑張りすぎないこと」を挙げる。
「みんな頑張るのは上手なんですよ。一方で、自分を休ませること、リラックスさせることを意識してこなかったという方は多いのではないかなと思います。自分の24時間を、お子さんやパートナーなど自分以外の誰かのために使うことをいとわない女性が本当に多いんです。ずっと走り続けると息切れしてしまうので、頑張るときとリラックスするときのメリハリをつけることが大切です」
産婦人科医・医学博士・スポーツドクターの高尾美穂さん。「女性は頑張り上手。意識して自分を休ませ、リラックスする時間を取って」と女性たちに提言する。
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ウーマンエンパワーメントが注目されているが、周囲が女性の背中を押すことと同じくらい重要なのが、女性自身が走っていくための力だと高尾さんは話す。そして、その力のために必要になるのが「ある程度の健康」だという。
「健康といっても、オールAである必要はないんです。若干いまいちな部分もあるけれど、おおむねOKという状態で構わないので、その状態を維持しながら自分がたどり着きたい場所をめざしていくことが大切です」
女性の人生はホルモンに揺さぶられる
高尾さんは、女性のライフサイクルと体の変化について、「女性の人生はホルモンに揺さぶられる」と話す。
「卵巣が女性ホルモンのエストロゲンを作り始めることで初潮を迎え、生理が順調に来る時期になると、生理痛やPMSなどの『生理があるからこそ困ること』が起こります。さらに、更年期に入るとエストロゲンが減り始め、心身にさまざまな変化が起きる『揺らぎ』の時期に入ります。更年期が終わると『凪』の時期に入るものの、女性ホルモンが減少したことによる不調が起きる人もいます」
女性のライフサイクルとホルモンの変化について概説する高尾さん。
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それぞれの年代で女性ホルモンに影響される「困りごと」が起きるものの、多くの女性たちは問題が深刻な状態になるまで相談しないという。
「女性はすごく困った状態になってから相談する方が多いんです。あらかじめできることがあると知っておくことで、選択肢が広がると思っています」
記録することで不調に備えられる
Apple WatchやiPhoneの「ヘルスケア」アプリの「周期記録」では、月経周期を記録して、そのデータをもとに、次の月経日や妊娠可能期間の予測を表示できる。さらに、Apple Watch Series 8とApple Watch Ultraでは、寝ている間に手首の皮膚温を計測することも可能になった。これによって過去の排卵日を推定できるようになり、より高精度な周期予測が可能になるという。この体温や手首皮膚温の変化からは、多くのことを知ることができると高尾さんは話す。
「ヘルスケア」アプリとApple Watchを組み合わせ、月経周期や手首皮膚温を記録することで、過去の排卵日や妊娠可能期間を知ることができる。
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「体温が高くなる時期は、排卵が起きて、もうひとつの重要な女性ホルモンであるプロゲステロンが分泌されたことを意味します。これは卵を温めている雌鶏をイメージするとわかりやすいかもしれません。妊娠している可能性がある時期なので、みずから体温を上げてそれを維持しようとしているんです。
つまり、出血の前に高温期があればプロゲステロンが出ているということで、その前には排卵が起きている、さらにその前にはエストロゲンが出ていると言い換えることができます。ここまでのことがわかるからこそ、体温の記録は重要なデータになります」
「心身の状態を記録することで、起こりうる不調にも備えることができる」と高尾さん。
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ヘルスケアアプリではこのほかに、「腰痛」「便秘」「気分の変化」といった、さまざまな心身の症状を記録することも可能だ。さらに、周期の偏差の可能性があるときに通知も受け取れる。
不調を記録することは、自身の状況を知り、起こりうる不調への準備をするうえでも役立つと高尾さんは話す。
「排卵の後、生理の前の期間は、女性にとって調子が悪くなりやすい時期です。体がむくんだり、便秘になったり、頭痛が起きたり、肌の調子が悪くなったり、イライラしたり、涙もろくなったり……。そういうことが起こりうる時期だと知っておけば、『今、言葉がきつくなりやすい時期から気をつけよう』などと考えることもできます」
アプリでは、「腰痛」「便秘」「気分の変化」といった、細かな心身の症状を記録することも可能。
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さらにヘルスケアアプリでは、記録した手首皮膚温や周期記録の履歴をPDFで書き出すことができる。このような記録は、病院を受診する際にも役立つと高尾さんは言う。
「婦人科の外来でわかることは、その場で検査できることだけなんです。たとえばエコーの検査で子宮や卵巣の大きさを調べることはできますが、ホルモンの変化による働きの問題については、診察室で対面した状態で得られる情報はすごく限られています。過去のことがわからないと先のことも推測できないので、記録があるとよりスムーズにお話しできるはずです」
痛みを我慢してしまうのは「もったいないこと」
記録をつけるというと大変なことのようにも思えるが、「たとえば生理周期なら、始まった日と終わった日をとりあえず記録しておくくらいでもいい」と高尾さんは話す。
「記録しておくことで、不調が出たときにそれが単発のものなのか、繰り返し起こっているものなのかがわかるようになります。たとえば、ちょっとお腹が痛くなったけれど、休んだらよくなった、という場合なら、すぐに受診する必要はないかもしれません。一方で、それが毎月続くようなら病院に行ってみようという選択ができます」
また、痛みや不調の記録についても「人と比べてどうか」「昨日と比べてどうか」といったことを考えたり、痛みを数値化したりする必要はなく、「つらいと感じたら記録する」という基準で問題ないという。
「病院での診断でも、生理のときに腰が痛くて生活上支障があれば、その時点で『月経困難症』という病名がつきますし、経血の量が多くて生活上困るということがあれば、それだけで『月経過多』になります。検査をして異常が指摘されてつく病名ではないんです。生活上支障が出ること自体が解決すべき課題なので、人と比べる必要はまったくありません」
痛みや不調があってもそれを我慢してしまう人も多いが、「それはもったいないこと」だと高尾さんはいう。
「女性は痛みを我慢しやすいですよね。それはつらい時期をどうにかやり過ごすことができた経験をしてしまっているから。たとえば、生理前の不調は生理がくれば改善するし、生理痛もつらい時期はたいてい3日くらいです。でも、その3日間を家で布団をかぶって休んでいるのではなく、調子よく過ごすことができれば、もっと様々なことができる。痛みや不調を我慢してしまうのはとてももったいないと思います」
日々の記録を通して、自分の健康を自分で把握することは、今後さらに重要になっていくと高尾さんは言う。
「この先日本の人口が減っていけば、医療機関にすぐにアクセスするのが難しくなる地域も増えていくと思います。そうなると、自分の健康を把握して変化に気づけるようになることがより重要になります。それが、自分の生きたい人生を生きるためのベースになると思っています」
取材・文/酒井麻里子
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