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MASHING UP SUMMIT 2023

社会を変える突破口になるか。女子スポーツとジェンダーイクオリティ

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画像/MASHING UP

企業におけるD&I推進は、試行錯誤を続けながらも進みつつある。ではスポーツ界はどうなのだろうか。2011年、東日本大震災の年。ドイツで開催されたFIFA女子ワールドカップで、なでしこジャパンが優勝した。日本にとっては、希望の光を見るようなニュースだった。

しかし、世界の頂点に立った選手たちはというと、アルバイトをしなければ暮らしていけないような待遇だったというから驚きだ。男子サッカーの選手は、億単位の収入を得られる人もいるというのに。

国際女性デーである3月8日、MASHING UP SUMMIT 2023にて、「We can make it! 女子スポーツが未来を創る」をテーマにセッションが行われた。スピーカーは、DAZN Japan Investment バイスプレジデント コミュニケーション&PRの松岡けいさん、WEリーグ チェアの髙田春奈さん、渋谷未来デザイン 理事・事務局長 長田新子さん。モデレーターのMASHING UP 遠藤祐子の進行で、女子スポーツ界の現状や課題、未来への可能性をそれぞれの立場から語った。

ビジネスとして成立させるため、まずはビジビリティを上げてファンを獲得する

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DAZN Japan Investment バイスプレジデント コミュニケーション&PRの松岡けいさん。

撮影/中山実華

DAZNは2016年夏に運用が開始された、スポーツ専門のストリーミングサービス。日本におけるコミュニケーション&PR部門の責任者である松岡けいさんは、プラットフォーマーの立場から女子スポーツの現状を語った。

オリンピックのポリシーのひとつに、ジェンダーイクオリティがあります。東京オリンピックでは、アスリートの男女比が史上最高の48.8%となりました。アメリカのPwCのリサーチによると、女性スポーツの収益はここ3年から5年で15%以上成長すると見ています。欧州の女子サッカーは、年間約7億3600万ドルの収益が見込まれているほど。

このように海外のスポーツ業界はジェンダーイクオリティの実現に力を入れていますが、日本の女子スポーツビジネスについては、まだ課題が山積しているのが現状です」(松岡さん)

男性のスポーツと比べると、女子スポーツは人気や需要が高いとは言えない現状がある。その理由は、ビジビリティ(見所)がないことだと、松岡さんは指摘する。

「人気がないからメディアが取り上げない。メディアが取り上げないから、人気が出ない。これは“鶏が先か、卵が先か”のジレンマとも言えますが、女子サッカーを見ない人の37%は見ない理由を『情報がない』と上げています。また30%の人は「情報があれば見る」と回答。興味がある、というデータはすでにあるのです」(松岡さん)

加えて、女性はファンになったチームの売り上げに貢献する傾向があり、その数字は男性の2倍にも及ぶという。ただ女性スポーツファンの方が購買力は高いとはいえ、日本は欧州と比較してメディアのカバレッジギャップが大きいのが課題だ。DAZNでは、YouTubeと組み、そのギャップを埋める対策を進めている

「まずはビジビリティを上げることが先決。欧州の女子チャンピオンリーグの61試合をDAZNで、全試合をYouTubeチャンネルで、それぞれ配信しています。WEリーグの配信もスタートし、現在DAZNのプラットフォームの15%が女子スポーツになっています。この数字はまだまだ上げていきたいです」(松岡さん)

女子スポーツを取り巻く構造自体を変えていく

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WEリーグ チェアの髙田春奈さん。

撮影/中山実華

WEリーグは、2021年9月に開幕した日本初の女子プロサッカーリーグ。2022年に同リーグのチェアに就任した髙田さんは、女子選手の待遇について言及した。

「プロということは、サッカーで食べていけるということ。しかし、男性の選手のように何千万、何億と稼ぐことはまず難しいという現状があります。それは、『クラブが稼げない構造になっている』ことが原因です。スポンサー企業様の数や、試合のチケットの売り上げが十分でない。どんなに高いレベルのプレーをしても収益が十分でないため、渡せるお給料も十分でないという状態になっています

私はリーグを運営する立場として、プレーにふさわしい待遇を用意する、賛同してくださる仲間を増やすことが、本当に求められていると実感しています」(髙田さん)

なでしこジャパンの優勝は、誰の記憶にも残っているだろう。しかし、松岡さんの指摘にもあったように、WEリーグのビジビリティが上がらないこと、認知度が低いことが業界全体の収益が上がらない原因だと話す。

「WEリーグが話題になり、試合を見ていただければファンの方は増えていくはずです。それだけ魅力のあるスポーツだと私は確信しています。多くの方に、女子プロサッカーを観ていただきたいと思います」(髙田さん)

女子スポーツ=「新規事業」という視点

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渋谷未来デザイン 理事・事務局長 長田新子さん。

撮影/中山実華

長年、ブランドや地域のマーケティングを手掛けてきた長田さんは、「スポーツも、商品のマーケティングと同じ」と指摘。

「私は前職で、マイナースポーツのマーケティングも取り組んできましたが、やはり重要なのはいかに多くの人にリーチできるかということ。どんなに素晴らしい機能を持った商品でも、消費者にその魅力が伝わらなければ購買にはつながりません。では女子スポーツの場合はどうしたらよいかというと、ひとつはやはりメディアの力を活用する。もうひとつは選手を身近に感じられる場をもつこと空中戦(メディア)と地上戦(イベント)の両軸が重要だと考えます」(長田さん)

アメリカでは、女子が将来なりたい職業として「サッカー選手」が上位にあるという。ヨーロッパでは先述の通り、女子チャンピオンズリーグの盛り上がりは日本の比ではない。では、日本がすべきことは普及活動だけでよいのだろうか。

「アメリカでは、俳優のナタリー・ポートマンさんやプロテニス選手の大坂なおみさんがアメリカのチームに投資をしています。スペインは男子サッカー、男子バスケットボール、女子サッカーの3つが政府が認めたプロリーグという位置付けになっていて、投資対象になっています。また、サッカーチームのバルセロナやレアルマドリッドは男子も女子も同一のクラブで、クラブ内で稼いだお金は、女子チームにも配分されます。スペインでは社会的な要請として、女子スポーツ支援を行っているのです」(髙田さん)

長田さんは、女子プロサッカーリーグのポテンシャルを考えると「スタートアップと捉えられるのではないか」と指摘。

「今は企業の中でもスタートアップ投資をしているところは少なくありません。サッカーという大きなフィールドで、『何が次のポテンシャルになるのか』という目線をもつ必要があるのではないでしょうか

『女性』『スポーツ』というキーワードは確実に時代に合っていて、スポーツブランドもフォーカスしています。女子サッカーが新規事業だと考えると、これまでの何倍にもなる可能性というポテンシャルがある、男子サッカーとは違うバリューがあると考えることもできます。サッカー全体を成長させるために、ジェンダーイクオリティという視点で語る必要もあるのではないでしょうか」(長田さん)

それはサッカーに限らず、スポーツ全般に言えるかもしれない。「新しいマーケット」と捉えるとビジネスとしての可能性は大きい。また、地域も「場の提供」をすることが重要だという。

「公園に行ってもボール遊びやスケボー禁止というような場所はまだまだあります。スポーツこそ、地域の発展に寄与します。そのためには場所を解放することが不可欠だと思います」(長田さん)

企業単体でなく、行政や国が一丸となってスポーツ業界全体を盛り上げていく視点が必要だと言えるだろう。

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2023年3月8日渋谷区のTRUNK(HOTEL)にて開催された、MASHING UP SUMMIT 2023でのセッション「We can make it! 女子スポーツが未来を創る」の様子。

撮影/中山実華

セッションの最後に、3人に「女子スポーツの未来」についての意見を聞いた。

Opportunity&Possibility
「本当にチャンスであり、良い機会。まだまだ発展途上ですから、いろんなことができるはず」(松岡さん)

突破口
「女性がもっと生きやすい社会に繋がっていく、社会を変える突破口に、女子サッカーがなればいいなと思っています」(髙田さん)

“ROLE MODEL”CHANCE
「WEリーグがロールモデルになれるのではないでしょうか。どう成長してどう価値を促していくのか、一緒に踏み出したいですね」(長田さん)

本セッションのタイトルにもなったWe can make it! 私たちみんなが「We」であり、社会を変えることができるはずだ。

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撮影/中山実華

MASHING UP SUMMIT 2023

We can make it! 女子スポーツが未来を創る

松岡 けい(DAZN Japan Investment バイスプレジデント コミュニケーション&PR)、髙田 春奈(WEリーグ チェア)、長田 新子(渋谷未来デザイン 理事・事務局長)、遠藤 祐子(MASHING UP 代表理事)

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島田ゆかり
ライター。広告代理店を経て、出版業界へ。雑誌、書籍、WEB、企業PR誌などでヘルスケアを中心に、占いから社会問題までインタビュー、ライティングを手掛ける。基本スタンス、取材の視点は「よりよく生きる」こと。

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