画像提供:清水建設
創立200年を超える大手ゼネコン・清水建設で、人事部ダイバーシティ推進室長を務め、社内のダイバーシティを推進する西岡真帆さん。女性管理職登用の具体的な目標値の設定に関わるなど、とくに女性活躍推進に向けた活動を通じて、社内の意識改革に努めてきた。これまでの取り組みの中で見えてきた課題とは。そして、これからの清水建設が目指すべき姿とは。
西岡 真帆(にしおか・まほ)
1995年4月、土木系総合職として清水建設に入社。都内の道路トンネル現場で施工管理を経験後、1998年10月より土木本部にてシールド関連の技術開発を担当。2001年4月から約13年間、土木技術本部にてコンクリートの専門技術者として全国の現場を支援。2011年4月に課長職に昇進。2014年5月、コーポレート企画室経営企画部に異動後、2015年6月より現職。2023年4月からコーポレート企画室DE&I推進部長。
バックキャストで女性管理職数の目標値を設定。実現に向けて経営層が自ら活動を牽引
人事部ダイバーシティ推進室長の西岡真帆さん。
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清水建設では、女性活躍推進計画の一環として、管理職総数に占める女性の比率を、2025年度に5%以上、2030年度に10%以上とすることを目指している。同社ではこれまでも女性管理職数の目標値を設定してきたが、男女比率をゴールに定めたのはこれが初めて。その背景について西岡さんはこう説明する。
「清水建設が女性管理職数の目標値を初めて設定したのは、2011年のこと。これまでは、たとえば『2023年度までに2018年度比50%増』というかたちで、目標設定当時の人数をベースに、当時を起点とした目標設定をしていました。この目標を2021年度に前倒しで達成したこともあり、2022年度にはあらためて、未来を起点とした男女比率の目標値を設定することになりました。
目標値は、当社の男性社員、女性社員それぞれが、同じ比率で管理職に登用されたと仮定して試算した数値を基準としています」
西岡さんがダイバーシティ推進室長に着任したのは2015年。以来、女性活躍推進の旗振り役として、さまざまな施策に取り組んできたが、新たな目標を実現するべく2022年度から始めたのが、“シン・ダイバーシティ”という施策だ。上半期には、会長と女性社外役員たちが全国の支店を訪問し、トップメッセージを発信するとともに、広く現場の声を集めたのだと語る。
「“シン・ダイバーシティ”の“シン”には、“新”、“真”、“進”などいろんな意味があり、これまでとは違う、一歩先を行くような活動をしていこうという想いが込められています。
そこでまず、管理職予備軍である女性たちや彼女らを推薦、評価をする立場にある男性役職者たちから生の声を聞こうと、会長の宮本と女性社外役員らがペアになって全国の支店を訪問。なぜ女性たちは管理職を目指さない、あるいは目指したくないと思うのか、男性の役職者たちはどうして女性を管理職に引き上げることに躊躇するのかなどをヒアリングし、会社としてできることを模索してきました。
その一環としてグループワークを実施したところ、『管理職として働くことに対して前向きではあるものの、いまの管理職に魅力を感じていない』という女性が多いことがわかりました。
また、ざっくばらんに意見することに長けている人もいれば、全体を調和したり調整したりする能力の高い人もいて、さまざまなアクションプランも提案されました。それぞれの良いところをうまく組み合わせれば、もっと良い組織にできるのではないか、そんなヒントや発想がたくさん得られた、収穫の多い取り組みでした」
まずは意識改革を。女性活躍推進と働き方改革を同時に進めることが成功の鍵
シン・ダイバーシティ活動の様子。宮本会長自ら、女性社員に語りかける。
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今回の女性管理職登用目標の策定に先立ち、清水建設では外部の女性活躍推進活動にも積極的に参画してきた。
「当社は、2021年から女性役員比率の向上を目指す“30% Club Japan”に加盟しています。これは2010年に英国で創設された世界的キャンペーンで、2030年に女性役員割合を30%にするとの目標を掲げ活動するもの。これに会長の宮本と社長の井上が参画したことが、先の活動につながりました。
また、経団連も『2030年30%へのチャレンジ』という同じような取り組みを行っていて、当社はその趣旨に賛同。女性をはじめとする多様な人財の視点をガバナンスに反映させる取り組みを進めています」
女性管理職登用を進める上で西岡さんが常に心掛けているのは、決して“数字ありき”の取り組みにしてはならないということ。さまざまな能力を「適切に評価する」仕組みづくりの大切さを訴え続けてきた。
「一番の問題は、能力があるにも関わらず管理職に登用されていない女性がいるということ。男性中心のルールに女性を当てはめるのではなく、これからの時代に社会で求められる能力が備わっている人財を登用していくべきだと考えています。仮にそれを実現できない評価制度や風土なのであれば、見直さなくてはいけないですよね。
シン・ダイバーシティ活動でわかったのは、『残業も休日出勤もできるような、仕事にすべてを捧げられる人が管理職になるべき』という暗黙の了解があること。そうした不文律の存在が、私生活も大事にしたいと思う人が管理職をあきらめたり、アンコンシャスバイアスが生まれたりする背景になっています。女性活躍推進と働き方改革はセットの関係にあり、2つを同時に進めるべきとの考えを社内に浸透させたいと思っています」
女性技術者として現場で感じた違和感。女性が活躍する場をつくるための手助けを
高流動コンクリートの品質管理など、長く現場の技術支援に携わった西岡さん(写真右)。
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土木系総合職として入社し、建設現場での施工管理を経験後、コンクリートを専門に長く現場の技術支援に携わってきた西岡さん。ダイバーシティの取り組みに関わるようになったのは、社内の女性活躍推進フォーラムでパネルディスカッションに登壇したことがきっかけだった。
「女性社員として現場で感じたことなどをストレートに語る姿を、きっと人事関係者が見ていたのでしょう。その後、『経営企画部に興味はないか』と声が掛かりました。実は当時、同部の役割を理解していませんでしたが(笑)、『興味はあります』と答えたところ配属されることになりました。
その約1年後、ダイバーシティ推進室長を打診されたのですが、当時は私には務まらないのではないかと思っていたのです。ダイバーシティに関する知識がなかったですし、私はそれまで土木エンジニアとしてやってきて、子どももいない。ダイバーシティとは関係のない人間だと思っていたのです。
いま思えば、そもそもその考えが間違っていたのですが、躊躇していた私に『女性技術者として実績を残している西岡さんだからこそ、女性が活躍する場をつくっていくことができる』と言ってくれた人がいて、引き受けることにしました」
実際、現場に出ていた時代には、違和感やなじめない点が少なくなかったという西岡さん。
「入社当時、建設現場には女性用のトイレや更衣室がないなど設備の問題のほか、『女の子だから』という理由から現場で花を育てる仕事を任されることに違和感を覚えていました。
また、今でこそ時間外の働き方を全社的に見直そうとしていますが、当時は残業が当たり前。17時に現場からあがった後、事務所でさんざん残業した挙句、明くる日の朝礼への参加は必須。仕事以外の時間も大事にしたいとか、子育てや介護をしながら働きたいという人には、到底無理な働き方だったと感じます。
誰にとっても働きやすく、個人の能力や適性に合った仕事ができる企業でありたいという想いが強いのは、現場時代のこうした経験があったからですね」
女性活躍推進計画の手応えと課題。持続可能な組織の構築に向けて
「ダイバーシティフォーラム2022」で、パネルディスカッションを進行する西岡さん。
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ダイバーシティ推進室長となって7年強。西岡さんは女性活躍推進を進める中で、変化の兆しや手応えを感じていると言う。
「現場はもちろん、営業や設計、技術などさまざまな職種で活躍する女性社員が増えたことで、顧客の多種多様なニーズに応えられそうだと期待しています。たとえば女子校や女子修道院などの工事を行う場合、工事関係者が男性ばかりだとお客様側としても気になることもあると思います。
多様な人財がいることで、これまで以上にお客様の要望に沿った形で仕事を進めていけるのは、大きな進化だと思います」
その一方で、まだまだ解決すべき課題は多い。
「女性社員からは、『期待されているなら管理職に挑戦してみたい』という声をたくさんもらいました。ただ『管理職になるのがすべてじゃない』という意見もあり、そこはもちろん私たちも同じ考えです。すべての方に同じ目標を持ってもらいたいわけではなく、自分らしい働き方、やりがいを見つけてかなえてほしい。それを一緒に実現していきましょう、というメッセージを今後はしっかり伝えて行く必要がありますね。
また、男性社員からは『一般職の女性は管理職と関係ないと思っていた』『認識にズレがあったことに気づいた』という意見が多かったので、今まさに行動が変容し、職場が変わろうとしている段階。ここからが正念場だと思っています」
そうした現状を踏まえながら、西岡さんはダイバーシティの取り組み、そして清水建設の未来を次のように展望する。
「ジェンダーにも多様性が認められるようになり、もはや『男性だから、女性だから』という時代ではなくなりました。私たちが目指すべきは、一人ひとりの能力が正しく評価され、それを互いに公平に認め合いながら、それぞれが持つ力を最大限に発揮できるような社会。女性活躍推進と働き方改革を両輪で進めながら、理想とする組織をつくっていきたいですね」
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