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- 水と真摯に向き合うからこそ。サントリーが「6分の1になるペットボトル」を開発するまで
画像提供/サントリー
企業のサステナビリティへの姿勢が問われるいま、先駆的企業はどのような視点で環境に配慮したチャレンジを実現しているのだろうか。
「水と生きる」というモットーのもと、水源涵養活動など「水のサステナビリティ」に取り組むサントリーは、基幹商品「サントリー天然水」の2Lペットボトルに画期的な新容器を採用し、2023年4月上旬から順次発売することを発表した。
この新容器は、4ステップの簡単な動作だけで、約6分の1の大きさまでコンパクトに折りたたむことができる。約2年をかけ、70を超える試作にトライしたという開発の経緯について、サントリーホールディングス株式会社 サプライチェーン本部 包材部の荻野大介さんに聞いた。
「つぶしやすい構造」を作るという新たなチャレンジ
新容器を採用した「サントリー天然水」の2Lペットボトル。6分の1のサイズになるため、飲み終わったあともかさばらず、ポリ袋削減にもつながる。
画像提供/サントリー
これまで、ボトルの軽量化や植物由来原料30%PETボトルの導入、国内最薄(12μm)ラベルの導入など、環境に配慮した容器・包装の開発に取り組んできたサントリー。今回の「6分の1になるペットボトル」は、今までとは違った難しさがあったと荻野さんは話す。
「事業部から、飲んだあとまで使いやすいボトルにするために、“つぶしやすい”という付加価値をつけたい、という依頼があったことが開発のきっかけでした。今まではボトルを軽量化することでつぶしやすさを向上させてきましたが、そうではなく、構造としてつぶしやすいものを作るということ。これはサントリーとしては初めての取り組みであったため、ワクワクすると同時に、形になるか不安な気持ちもありました」(荻野さん、以下同)
開発に携わった主な部署は、事業部、デザイン部、生産部、包材部。荻野さんをはじめとする包材技術者を中心に、マネージャーを含めて12名ほどがチームに加わり、約2年をかけたプロジェクトが始まった。
平行四辺形を取り入れて「つぶれ方」を誘導する
4月上旬に開かれたプレス発表会では、女優の芦田愛菜さんが新容器をコンパクトに折りたたんでみせた。
画像提供/サントリー
容器の開発にあたり、荻野さんたちが「ここだけは譲れない」と考えたポイントが2つある。ひとつは、つぶしやすさを付加しつつ、「持つ」「注ぐ」といった従来の使いやすさは損なわないこと。もうひとつはボトルとして必要な機能、とくに積載・搬送に耐えうる強度を維持することだ。
「最初は容量を減らし、軽量化しつつ縦方向にぐしゃっとつぶす方法を考えました。しかし、容量が減ることはお客様にとって望ましいことではありません。さらに、リサイクラーの方とどのようなつぶし方がよいのかを議論していくなかで、縦につぶすことはリサイクル適性が悪いということがわかり、方向転換しました」
つぶし方を検討していくなかで、「ボトルの角を起点にするとつぶしやすい」ことに気づいた開発チーム。最初は角からつぶしてもらえるような「つぶしポイント」を入れた試作品を作ったが、そのまま渡すだけではつぶし方に気づいてもらえず、うまく機能しなかったそうだ。
「そこで考えたのが、“つぶし方”ではなく、“つぶれ方”を誘導すること。ペットボトルは、角を起点につぶすと平行四辺形になりながらつぶれていきます。あらかじめ持ち手部分を少し平行四辺形にしておくことで、いつも通りつぶしても自然と角を起点にしてつぶれていく構造にしました」
子どもの「折り紙」が教えてくれたグッドアイデア
サントリーの調査によると、飲用後のペットボトルは約6割のユーザーがつぶしているが、つぶし方は「縦あるいは横につぶす」、「つぶしてひねる」など人それぞれ。特に2Lペットはなかなか小さくならないため苦労している人が多く、「つぶしたあとに形が元に戻るとイラッとする」といった声が寄せられたという。
今回の新容器は、4ステップに倣えば自然とコンパクトになるように設計されているため、つぶす方法に迷うストレスがない。秀逸なのは、最後にボトルの首を手前に折り曲げることで底部がロックされ、形が元に戻らなくなること。荻野さんはこのアイデアを、子どもが折り紙好きだったおかげで思いついたと振り返る。
「折り紙のようにボトルを折りたためるようにしたら、コンパクトにできるし、作業自体も面白くなるのでは……と思ったんです。そこで、ボトルに目印(ボトルの肩と底の☆マーク)や山折り線をつけて、楽しく簡単に折りたためるように工夫しました」
星印の目印や山折り線など、折りたたむ作業を楽しめる様々な工夫を盛り込んだ。
画像提供/サントリー
2年で試作70回。トライ&エラーの繰り返し
こうして基本構造ができたものの、大きな壁が立ちはだかる。平行四辺形——つまり左右非対称の形を取り入れたことで、ボトルの上から荷重がかかったときの力の掛かり方が不均等になり、強度が弱くなってしまうという欠点が生じたのだ。
「これをクリアすることが今回の一番の難題でした。左右非対称の構造を持つボトルを作るのは初めてで、何をどうすればいいのかまったく知見がない状況でしたが、弊社の“やってみなはれ精神”でこの課題に挑みました。
コンピューター解析なども使用しましたが、現実との乖離が大きくて。最終的には実際に試作してトライ&エラーを繰り返すことで、この課題をクリアしました」
苦戦することは覚悟していたものの、試作数が70回に及ぶとは予想していなかった、と荻野さん。モニター調査を実施したところ、できあがったボトルはつぶすところまでを含めて高評価を獲得。実に20年ぶりの新デザインとして、「サントリー天然水」2Lペットボトルへの採用が決まった。
ペットボトルはゴミではなく、資源
5年連続で清涼飲料ブランド売り上げ1位を誇るサントリーが、環境負荷が低くユーザビリティの高いペットボトルを開発する意義は大きい。「『サントリー天然水』はたくさんのお客様に飲んでいただいている商品だからこそ、その接点の多さで、まずはお客様に楽しんでいただきながら分別促進につなげられたら」と荻野さんは語る。
「今回のボトルは、飲み終わったあとにかさばるというペットボトルへの不満を改善しただけでなく、ボトルの回収やリサイクラーでの作業効率の向上、ポリ袋の削減などが見込めると考えています。ペットボトルはゴミではなく、何度も循環できる資源。きちんとリサイクルすることが重要であるということを、今回のボトルを通して考えていただけたら幸いです」
目を引くデザイン性よりも、「つぶしやすさ」を主眼に開発されたペットボトル。人々がその価値を知り、「選ぶ」という行動をとることは、循環型社会の実現に向けた着実な一歩となるはずだ。
[サントリー]

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