画像提供:住友重機械工業
住友重機械工業では、2016年から本格的にダイバーシティ推進に取り組んでいる。その責任者を務めるのは、D&I活動のエキスパートとして招聘された信太朱里さん。わずか7年で女性管理職の倍増、男性育休取得率を大きく押し上げる成果を挙げてきた。組織のダイバーシティ推進を率いるリーダーであり、3児の母でもある信太さんが、住友重機械工業が取り組む組織改革について語る。
信太 朱里(しだ・あかり)
大学卒業後、広告代理店を経て2000年にインターネットサービス企業に入社。マーケティング、経営企画、人事、ダイバーシティ推進などを経験。2016年 住友重機械工業株式会社に入社。現在は組織開発とダイバーシティ推進の責任者。高2、中3、小6の3人の子供を持つワーキングマザー。
ライフステージの大きな変化をきっかけにダイバーシティ推進のキャリアをスタート
住友重機械工業 人事本部人事戦略部 組織開発グループ 信太朱里さん。ダイバーシティ推進に力を入れ、女性の育休復帰率の向上などに寄与した。
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人事本部人事戦略部 組織開発グループのリーダーとして、現在は組織開発とダイバーシティ推進の責任者を務める信太さん。社会人人生の前半は事業のフロントライン業務に従事していた。
「1996年に新卒入社した広告代理店で営業を経験し、2000年にIT大手企業に転職。当時は従業員100人くらいの中小企業でしたが、広告やクライアントマーケティングなどの立ち上げ、買収企業のPMIに携わるなど、さまざまな経験をさせてもらいました」
そんな信太さんにとってキャリアチェンジのきっかけとなったのが出産だった。
「第1子を出産して職場復帰すると同時に、グループ会社へ出向しました。出産前とは仕事内容が大きく異なる配属となり、その後、本社の経営企画に戻り再出発しようとした矢先に第2子を妊娠。復帰後は人事担当になりました。事業を大きくすることにやりがいを感じていたので、人事に配属されたことは本意ではありませんでした。しかし、それまで部下や後輩を育成してきた実績を振り返れば、人事は自分に向いている分野だとも思えたし、いま思えば、キャリアが広がる転機になったと思っています」(信太さん)
信太さんが「ダイバーシティ」というテーマを意識するようになったのもこのころ。
「男性社員と対等に働いてきた自負があったので、出産後に180度異なる業務を命じられた現実を、最初は受け入れることできなかったのです。同じ境遇に置かれていたのは私だけではありません。当時その会社では、女性社員の2割が産後に離職をしている状況でした。子どもがいると時間的な制約が生まれますが、その人自身の能力は変わりません。優秀な人材が辞めたり力を発揮できなかったりすることは、会社にとっても損失だという気持ちがありました。
当時はワーキングマザーのサポートをしようという雰囲気は社内にはなかったので、社内のママ友と数人で、非公式にワーキングマザーのネットワークをつくることにしました。女性社員に向けて、『出産しても仕事を続けられるし、楽しいよ』と情報を発信したり、育休復帰前セミナーを開いたりと、ボランティアとして活動していました。その輪が広がり、100人規模のネットワークになるころには、女性の育休復帰率が100%に。外国籍の社員が増えたこともあり、2015年に正式にダイバーシティ推進課が発足し、私が担当者としてアサインされました」
ダイバーシティ推進のキャリアをスタートさせた信太さん。2016年、新天地を求め、住友重機械工業へ転職した。
「明治から100年以上続く組織を変えられるなら、日本も変えられるのではないか。そこに魅力を感じて入社。人の良さに惹かれたのも、入社の決め手の1つです。当社には人間味と、人を大切にしてくれる雰囲気があるのを感じました。実際、入社後に喘息で息子が2週間入院したとき、『家族を優先して』と上司に言ってもらえたことはいまでも忘れられません。家庭と仕事が両立しやすい環境で働けていると実感しています」(信太さん)
誰もが挑戦したいと思える環境に。女性の管理職比率倍増へ
入社後、すぐに同社のダイバーシティ推進に着手した信太さん。スタート当初は、伝統的な価値観が想像以上に色濃かったと振り返る。そこで、信太さんが取り組みの柱としたのが、「制度」「環境」「意識」の3つだった。
「当時、短時間勤務、育児休暇といった制度は非常に充実していました。その一方、退職規程には結婚、出産を機に退職する場合には、円満退職扱いという文言があったのです。現在、結婚・出産を機に退職する女性社員は多くはないですし、その制度があると結婚・出産後は退職を勧めているというメッセージになってしまう。その制度を廃止した方が良いと考えましたが、結婚・出産したら退職したほうが幸せと考える人だっているだろうという意見があったり。
制度を変えることは一筋縄ではいかず、想像以上に大変と感じましたが、『これからは女性も含めてみんなが働き続けるようにしましょう』というメッセージを粘り強く発信し続けました。女性用の更衣室やトイレが十分に準備されていなかった工場に対して、改修を要請するなど環境改善に向けても働きかける一方、意識改革をめざして研修やeラーニングなどで地道な啓蒙活動を進めていきました。
ダイバーシティについて、『女性ばかりを優先しているのではないか』『なぜ女性からなのか』という声が上がるなど、価値観を変えていくのはなかなか骨が折れる作業でしたね」 (信太さん)
ネガティブな反応は女性の中にも。
「女性向けに管理職をめざすキャリア研修を行ったところ、『管理職にはなりたくない』という声もありました。いまになって思えば、『ある一定数の女性社員は管理職になれるはずがない』との思い込みから、なれるはずのないものに挑戦することへの抵抗があったのかもしれません。でも、実際には女性にだってチャンスがあるし、管理職のやりがいを伝えられたら、きっとなりたいと思う人が出てくると信じて、女性の意識改革にも取り組んできました」
そしてスタートから7年。確かな手ごたえを感じていると信太さんは話す。
「着手し始めて3~4年経ったころから、女性管理職が増え始めました。2015年比で女性管理職数を倍増させるという目標を1年前倒しで達成し、女性向けのキャリア研修にも100人以上の人が手を挙げて参加してくれるようになりました。 男性の育休取得率も以前は20%ほどだったのが約56%に増えました。また、『配偶者出産休暇』も含めると90%以上にのぼっており、キャリアへの影響や周囲の目を気にして育休取得を控える雰囲気がなくなりましたね。男女ともに意識が変わってきたと実感しています」(信太さん)
個人の能力を引き出す鍵は「対話」と「協働」
管理職に挑戦したい女性を後押し。一人ひとり社員の意識の底上げが、組織としての成長につながると語る信太さん。
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女性社員の意識が変化したことで、会社全体の価値観が大きく変わりつつあるのを感じていると信太さんは続ける。
「先日、管理職一歩手前の女性向けの研修を終えた社員から、とてもうれしい言葉をもらいました。それまで管理職になりたいという気持ちはなかったけれど、研修を受けて『管理職に挑戦したい』と考えが変わったというのです。
こうした意識を持っているかどうかで、仕事のパフォーマンスは大きく変わるもの。今後、こうした明確な意思を持った管理職が増えることで、会社全体の意識の底上げにつながると期待しています」
ダイバーシティと並行して、同社では2018年に組織開発グループを発足。信太さんはその責任者を務めている。
「人の多様性を受け入れる土台ができたら、次はその力をどうやって発揮させていくかを考える必要がある。そのための仕組みづくりは、組織全体の関係性や意思決定のあり方にも絡んでくるので、そこにも着手したいと思っていました。ちょうど、会社としても組織に関して課題を感じているタイミングだったこともあり、組織開発グループを立ち上げることになりました。
『自律する個人と挑戦する組織』がこの活動のめざす姿です。組織の課題は本社で一律に解決していくことは難しいので、計38の本社部門・事業部門・関係会社に推進事務局を設置し、人事と推進事務局がタッグを組んで『対話』と『協働』をキーワードに活動を進めています」(信太さん)
目指すはダイバーシティの最前線
「今いる社員がさらに能力を発揮できる組織にすれば会社はもっと強くなる、これがいまの私のやりがいです」 とダイバーシティ推進リーダーとしての想いを語る。
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伸びしろの大きさにやりがいを感じているという信太さん。同社で働く醍醐味についてこう話す。
「ダイバーシティや組織開発が進んでいる会社はたくさんありますが、完成している会社よりも、これから変わろうとする会社のほうにおもしろみを感じます。とくに、当社には非常に優秀な方が集まっています」
そうやって自身を駆り立て続ける信太さんの原動力とは?
「ダイバーシティ推進は総論賛成、各論反対という状況がよく起こります。自分より上の立場の方から反対されることも。そんなときは『私の後ろには1000人の女性社員がいて、その後ろには社員の子ども、ひいては日本のすべての女性がいる。だから、ここで私が諦めるわけにはいかない』と自分に言い聞かせて、粘り強く説得します。この国で暮らすすべての女性や少数派の声を背負っているという想いが、私の原動力です。誰かがやらないと日本は変わらないし、その誰かになりたいのです」 (信太さん)
2023年で入社8年目を迎える信太さん。これからもダイバーシティの実現と組織開発に力を尽くすつもりである。
「今後、ますます少子高齢化が進み労働力不足が予想される中、社員一人ひとりが能力を120%発揮できるような職場をつくっていかないと、企業は立ち行かないだろうと思っています。
個人にとっても、能力を発揮できることは幸せなこと。女性やLGBT、外国籍の人や障がい者も、すべての人が『こうなりたい』『こうしたい』という想いを実現し、仲間と大きな目標を達成する喜びを分かち合える環境こそが理想だと思うのです。そういう職場づくりを目標にダイバーシティを推進していきたいですし、挑戦に前向きな文化の中で社員が成長意欲を持って働ける会社をめざして組織開発に取り組んでいきたいのです」
日本の女性や少数派の声を背中に感じながら、信太さんはこれからもダイバーシティの最前線に立って前進する。
※ 記載内容は2023年6月時点のものです
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